適当に駄文。
書き物は妖怪メイン・・・でもないかも。
TRPGとか電源ゲーとかの話も。
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くもがふち
山奥にある薄暗い淵。
木立が邪魔をして日は差さず、またその木の陰が水面に映りこんで、薄緑色の水をたたえた淵は、比較的浅い場所でさえ見通すことはできなかった。
もとより人の訪れることは少なく、また通りかかったとしてもそのような酔狂な真似はしなかったであろうが、もしもこの淵に恐れ気も無く頭を突っ込む愚か者が居たならば、奇妙な歌声を耳にしたであろう。
とんとんからり とんからり
くものおりいと おりおりのうた
ふかいみなぞこ へびのおり
そこのそこには くもがおり
淵の底には一匹の大蜘蛛が棲み付いていた。
無論、本来ならばそのような場所で生活する生き物ではない。たとえ人語を解し、面妖怪奇の技を振るったとしても蜘蛛は蜘蛛。喜んで水の底に沈んでいるわけではなかった。
とんとんからり とんからり
くものおりいと おりおりのうた
われがおらねば いとほつれ
ひとのおらぬが いとかなし
この蜘蛛、かつてこの淵を中心に縄張りを張っていた主と争った、一匹のあやかしであった。蜘蛛は主を打ち負かしたものの、最期のあがきに引きずられ、淵の底に閉じ込められてしまったのであった。蜘蛛が機織に使っている道具は、朽ち果てたかつての主の骨を組み合わせたものである。
とんとんからり とんからり
くものおりいと おりおりのうた
ふちのそとでは あめがふり
ふちのなかなど しらぬふり
大蜘蛛のかたわらで、一匹の子蜘蛛がささやいた。
「かあさま、かあさま。いとをのばして、きにしばりつけ、はいあがったらどうでしょう」
「だめだめ、わたしはおまえより大きくて重いのだもの。縛り付けた木のほうが、淵に引きずりこまれてしまいますよ」
とんとんからり とんからり
くものおりいと おりおりのうた
ふちのなかでは はたをおり
ふちのそとへと ほねをおり
大蜘蛛のかたわらで、一匹の子蜘蛛がささやいた。
「かあさま、かあさま。いとをのばして、にんげんにひっぱってもらったらどうでしょう」
「だめだめ、わたしはおまえより大きくて重いのだもの。引っ張った人間のほうが、淵に引きずりこまれてしまいますよ。それに人間は、わたしのことを怖がるでしょう」
とんとんからり とんからり
くものおりいと おりおりのうた
ふちのそこには ふかいやみ
われのこころは ふかくやみ
大蜘蛛のかたわらで、一匹の子蜘蛛がささやいた。
「かあさま、かあさま。ふちのそばに、たいそうたくましいにんげんがおりましたので、いとをちょいとくっつけてまいりました」
「まあ、なんということを。間違えてひっぱったら、その人間がひきこまれてしまいますよ。はずしてらっしゃい」
「ほんとうにほんとうに、たいそうたくましいにんげんなのですよ。そしてうそうたがいもなく、ちょいとはりつけてきただけですもの。あぶないとおもってふりはらえば、すぐにはずれてしまいます」
大蜘蛛は機織の手と歌を止めて、ちょいと首をかしげた。
もしほんとうに、淵のそばに居るという人間が自分を引き上げることが出来るほど力強いならば、それは願っても無いことであった。
すこぅしだけ引っ張ってみて、糸が振り払われるようなら諦めよう。
もし人間が慌てて暴れる気配がしたら、糸を切り離してしまおう。
うん、それならば迷惑もかかるまいと、ひかえめな、あまりにひかえめな決心をした大蜘蛛は、本当に少しだけ、軽く糸を引っ張ってみた。
大蜘蛛の予想に反して、糸は確たる手ごたえを返した。
糸は振り払われなかった。糸の先で暴れる気配もしなかった。引っ張り返す様子こそなかったものの、その手ごたえから大蜘蛛は、糸をしっかと握り締めて大地を踏みしめた偉丈夫の姿を想像した。
万が一ですら考えていなかった幸運に、大蜘蛛は驚喜した。幾年幾月過ごしたかわからぬこの水底から抜け出す機会ぞと、人間への配慮も忘れ、ぐいっとばかりに糸を引いた。
一瞬の抵抗と、そして何かが淵に落ちる音とが返ってきた。
不意に消えた手ごたえに驚いた大蜘蛛は、いそいで糸を手繰り寄せた。手元へ寄って来たのは、糸で巻かれた切り株であった。
わけのわからぬ事態に狼狽する子蜘蛛をあやしつつ、大蜘蛛は肩を落とした。
引き込まれたのが人間でなかったのは幸いであった、と思った。子蜘蛛が糸をかけたという人間は大層怖がらせてしまったかもしれないけれど。
しかし、人間たちはもうこの淵には近寄って来るまい。訳を聞かせて助けてもらうことは、どうせそのようなことをする気もなかったが、またかなわぬ夢となったであろう。
いや、もしやすると、人間たちは武器を持って数を頼みに、『淵に人間を引きこむあやかし』を退治にくるやもしれない。
いっそ、そうなってしまえばいいのに。
そしてまた機織が始まる。
とんとんからり とんからり
くものおりいと おりおりのうた
はじまできたら おりかえし
山奥にある薄暗い淵。
木立が邪魔をして日は差さず、またその木の陰が水面に映りこんで、薄緑色の水をたたえた淵は、比較的浅い場所でさえ見通すことはできなかった。
もとより人の訪れることは少なく、また通りかかったとしてもそのような酔狂な真似はしなかったであろうが、もしもこの淵に恐れ気も無く頭を突っ込む愚か者が居たならば、奇妙な歌声を耳にしたであろう。
とんとんからり とんからり
くものおりいと おりおりのうた
ふかいみなぞこ へびのおり
そこのそこには くもがおり
淵の底には一匹の大蜘蛛が棲み付いていた。
無論、本来ならばそのような場所で生活する生き物ではない。たとえ人語を解し、面妖怪奇の技を振るったとしても蜘蛛は蜘蛛。喜んで水の底に沈んでいるわけではなかった。
とんとんからり とんからり
くものおりいと おりおりのうた
われがおらねば いとほつれ
ひとのおらぬが いとかなし
この蜘蛛、かつてこの淵を中心に縄張りを張っていた主と争った、一匹のあやかしであった。蜘蛛は主を打ち負かしたものの、最期のあがきに引きずられ、淵の底に閉じ込められてしまったのであった。蜘蛛が機織に使っている道具は、朽ち果てたかつての主の骨を組み合わせたものである。
とんとんからり とんからり
くものおりいと おりおりのうた
ふちのそとでは あめがふり
ふちのなかなど しらぬふり
大蜘蛛のかたわらで、一匹の子蜘蛛がささやいた。
「かあさま、かあさま。いとをのばして、きにしばりつけ、はいあがったらどうでしょう」
「だめだめ、わたしはおまえより大きくて重いのだもの。縛り付けた木のほうが、淵に引きずりこまれてしまいますよ」
とんとんからり とんからり
くものおりいと おりおりのうた
ふちのなかでは はたをおり
ふちのそとへと ほねをおり
大蜘蛛のかたわらで、一匹の子蜘蛛がささやいた。
「かあさま、かあさま。いとをのばして、にんげんにひっぱってもらったらどうでしょう」
「だめだめ、わたしはおまえより大きくて重いのだもの。引っ張った人間のほうが、淵に引きずりこまれてしまいますよ。それに人間は、わたしのことを怖がるでしょう」
とんとんからり とんからり
くものおりいと おりおりのうた
ふちのそこには ふかいやみ
われのこころは ふかくやみ
大蜘蛛のかたわらで、一匹の子蜘蛛がささやいた。
「かあさま、かあさま。ふちのそばに、たいそうたくましいにんげんがおりましたので、いとをちょいとくっつけてまいりました」
「まあ、なんということを。間違えてひっぱったら、その人間がひきこまれてしまいますよ。はずしてらっしゃい」
「ほんとうにほんとうに、たいそうたくましいにんげんなのですよ。そしてうそうたがいもなく、ちょいとはりつけてきただけですもの。あぶないとおもってふりはらえば、すぐにはずれてしまいます」
大蜘蛛は機織の手と歌を止めて、ちょいと首をかしげた。
もしほんとうに、淵のそばに居るという人間が自分を引き上げることが出来るほど力強いならば、それは願っても無いことであった。
すこぅしだけ引っ張ってみて、糸が振り払われるようなら諦めよう。
もし人間が慌てて暴れる気配がしたら、糸を切り離してしまおう。
うん、それならば迷惑もかかるまいと、ひかえめな、あまりにひかえめな決心をした大蜘蛛は、本当に少しだけ、軽く糸を引っ張ってみた。
大蜘蛛の予想に反して、糸は確たる手ごたえを返した。
糸は振り払われなかった。糸の先で暴れる気配もしなかった。引っ張り返す様子こそなかったものの、その手ごたえから大蜘蛛は、糸をしっかと握り締めて大地を踏みしめた偉丈夫の姿を想像した。
万が一ですら考えていなかった幸運に、大蜘蛛は驚喜した。幾年幾月過ごしたかわからぬこの水底から抜け出す機会ぞと、人間への配慮も忘れ、ぐいっとばかりに糸を引いた。
一瞬の抵抗と、そして何かが淵に落ちる音とが返ってきた。
不意に消えた手ごたえに驚いた大蜘蛛は、いそいで糸を手繰り寄せた。手元へ寄って来たのは、糸で巻かれた切り株であった。
わけのわからぬ事態に狼狽する子蜘蛛をあやしつつ、大蜘蛛は肩を落とした。
引き込まれたのが人間でなかったのは幸いであった、と思った。子蜘蛛が糸をかけたという人間は大層怖がらせてしまったかもしれないけれど。
しかし、人間たちはもうこの淵には近寄って来るまい。訳を聞かせて助けてもらうことは、どうせそのようなことをする気もなかったが、またかなわぬ夢となったであろう。
いや、もしやすると、人間たちは武器を持って数を頼みに、『淵に人間を引きこむあやかし』を退治にくるやもしれない。
いっそ、そうなってしまえばいいのに。
そしてまた機織が始まる。
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くものおりいと おりおりのうた
はじまできたら おりかえし
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プロフィール
HN:
双葉稀鏡
性別:
男性
趣味:
TRPG
自己紹介:
いつもは別のハンドルを使っている。
某MMOの属性武器の通称と同じなのは嫌なので、こっちを名乗る。
某大学RPG研究会OB。
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