注文の多かった料理店

久々に書き物。
なんで書こうと思ったのだか忘れたけれど。

元ネタ知らない？　不勉強な。今なら無料で読めますよ。

注文の多かった料理店

　やあやあ、ようこそ。さあ、そこへお座りください。
　おお、外は吹雪いておりますな。おさむかったでしょう。
　すぐに食事にいたしますか？　なに、寒くてそれでころではない？
　ああ、それは都合がよろしい。失礼ながらわたくし、さきほど昼食を終えたばかりでして、動くのがすこぉし億劫なのでございます。
　もしよろしければ、お客様が人心地つくまで、わたくしの腹がこなれるまで、お話でもいたしませんかな？
　ええ、表にも書いておりますとおり、ここは注文の少ない料理店です。
　こう申しますと多くのお客様が奇妙な顔をなされますが、注文が少ないのは良いことなのですよ。お客様がお越しになれば、すぐにでも食事ができるように、と考えてのことでございます。たしかに品目は限られてしまいますが、戸惑うことなく、迷うことなく、すぐに食べられる美味しい料理。そのために注文は少ないのです。
　ははあ、なるほど。専門店、と申すのですか。最近はそういう店も多くなったと？　なるほど、世の中は変わるものですなぁ。
　いえ、以前開いていた店で、多くの注文を用意してしまったために、料理そのものを不意にしてしまったことがございましてね。その反省を生かしてのことだったので、その専門店とやら申すものを意識したわけでは御座いません。
　ええ、以前も料理店をやっておりました。あの頃は助手も二人ばかりおりまして、様々に贅も趣向もこらしておったものですが。先ほど申しました失敗のおり、弟子も離れて行きましてな。今ではこうして一人で切り盛りしております。
　……さて、腹もおちついてまいりました。そろそろ食事とまいりましょうか。
　はて？　注文？
　注文なら最初にしたではありませんか。「そこへお座りください」と、ただ一つだけ。
　では長らくお待たせいたしました。
　いただきます、お客様。

　まだ硝煙を漂わせる猟銃を片手に、私は吹雪のおさまった外へと足を踏み出した。
　ザクザクと雪を踏みしめながら料理店を振り返ると、山猫軒と書かれた看板と、あの噴飯ものの但し書きの張り紙とが見えた。
　曾祖父が残した手記を読んでいなければ、私も『食事』になっていたのだろうか。
　しかしあの店長、いかに注文を少なくしてすぐに食事にありつきたいとは言え、せめて銃くらいは置かせたほうがよかったのではないか。
　反省する、ということは極端から極端へはしることではあるまいに。