適当に駄文。
書き物は妖怪メイン・・・でもないかも。
TRPGとか電源ゲーとかの話も。
+ + + + + + + + + +
むらさきかがみ
むらさきかがみ、知ってるかな。
その言葉を20歳まで覚えていたら死んでしまうという一種の都市伝説なんだけど、僕はこの話の出所に一つ心当たりがある。
期待していたら悪いけれど、怖い話でも不思議な話でもまったくないんだ。
それでももしよかったら、ちょっと長話につきあってほしい。
都市伝説にありがちな、数多い「噂の真相」ってやつだとでも思ってね。
僕の住んでいた村は、村とは言っても千人単位の人間が暮らしている場所だった。
それだけ広いと「村」という区分一つでは不便なので、6つだか7つだかの「山」とか「津」とかわかりやすい名前のついた地区に分割されていた。
さて、僕の住んでいる地区には一つの神社があった。小さな鳥居が一つとこれまた小さな社殿が一つしかないもので、当然住み込みの神主などいるはずもなく、地区の人間が当番を決めて掃除にくるだけという、本当に小さな神社だった。
この神社は別の地区にあるそこそこ大きな(あくまでそこそこ、ね)神社の分社で、おそらくは本社のある地区まで歩くのが負担とならぬよう、出張所のように作られたのだろうと思われた。
この分社の御神体を僕は見たことがなかった。しかし本社の立派な社殿(うちの地区の神社と比較すれば、それはもう立派だった)の奥に大きめの鏡が飾られていたことを考えると、やはり分社の御神体も鏡であったのだろう。
その小さな分社の社殿の後ろには、これまた小さな苔むした石造りの祠があって、やはり石造りの観音開きのその扉が、無骨な針金でぐるぐる巻きにされていたことを覚えている。
子供ながらに「神様を閉じ込めるとはなんと罰当たりな」と思ったものだが、これにはちゃんと理由があった。
覚えておいて欲しい。このぐるぐる巻きの祠は、「むらさきかがみ」に大きく関係しているんだ。
僕が生まれるずっと前の話だ。と言っても外から引っ越してきた父が知っていた話だからそんなに昔でもない。
僕が住んでる地区でも立派な神社がある地区でもない、また別の地区でのことだ。
どういう理由か分からないけれど、そこにも一つ分社を作ろうという話になった。うん、まあ多分、参拝に行くのが遠いとか、やっぱりそういう理由だったんじゃないかなあ。
さて分社を作るっていうことは、神様を分割させなきゃならない。もちろん御神体をバキっと割るわけにはいかないから、別の御神体候補を持ってきて、「すみませんが、こちらに半分移っていただけないでしょうか」と丁重にお迎えするわけだ。これは立派な、しかも大事なお祭りなわけで、ごくごく限られた人間少数だけが、神主さんの指示のもとで厳密なしきたり通りに行う。
そういうわけで儀式の準備をしたらしいんだけど、どうしてそんなことになったのか、新しい分社の神様は、本社じゃなくて僕の地区にある御神体から分けてもらうことになったらしい。
どう考えてもこれが不幸の原因なんだ。なんでそんなことになったんだか。
ちゃんと儀式は終わって、無事に新しい分社はできた。ところが、だ。僕の地区の御神体がどこかに行っちゃった。
「儀式のときに無くなったんだ」とか、「いやちゃんと返したはずだ」とか、当然のように二つの地区で揉めに揉めた。いろいろ情報が錯綜するうちに双方だんだん苛立ってきて、「儀式なんかやってない。おまえらが勝手に盗んだんだ」とか「言いがかりだ、そもそもおまえらの所から何か借りた覚えは無い」とかひどい意見まで出始めた。
もちろん神主さんや儀式に関わった人、それに別に地区に人々も事態を収めようと色々奔走したんだと思う。でも悲しいかな、僕の村はいわゆる閉鎖的な田舎で、互いに互いを相容れない敵と認識してしまった以上、地区という名の派閥に分かれての抗争は激化する一方だった。
やがて抗争は別の地区も巻き込んで、村を二分する争いになった。
どっちの地区に味方するか、で別の地区同士が、ひどいときは地区内でも喧嘩しあったらしい。
いきなりなんだけど、本殿の御神体が鏡なんだったら、うちの分社の御神体もたぶん鏡だろうって話はしたよね。もちろん新しい分社の御神体も鏡だったんだろうと僕は思っている。だいたい、モノを「うつす」ってのに鏡というものは最適じゃないだろうか。そのへんの神社にたくさん鏡が置いてあるのは、そういうことじゃないかな。
なんでこんな推測で話すのかというと、僕の知り合いには実際のところ御神体がなんなのか答えられる人が少なかったんだ。大半が知らないか、たまに「鏡だ」と答える人が少数いるだけで、しかもその人たちに「見たことあるの」と聞いたら誰もが否定した。それを知ってるのは神主さんを初めとした、ほんとうに一握りの人だけなんだろう。
そういうわけで正体もわからないまま行方不明になった御神体だったけれど、僕と同じように鏡だと考えた人のうちの誰かが、揶揄を込めて「村裂き鏡」と呼び始めた。仲裁しても収まらない、それどころか自分たちまで巻き込んで争い続ける二つの地区に呆れ果てた誰かだったんだろう。
「村裂き」と「紫」がかけてあるんだろうってことは、今の僕にはすぐに想像できる話で。呼び始めた誰かさんは、神主さんか、それとも分社の儀式に立ち会った御神体を知っている誰かだったのかもしれない。鏡自体が紫じゃなくても、それを包んでいる袱紗が高貴や貴重をあらわす紫色だったってことは十分にありうると思う。
もちろんこの段階では、20歳まで覚えていたら死んでしまう、なんて話はなかったようだ。
僕の村は田舎にありがちなように、そのへんいたるところに親戚関係があったりする。地区内だったり地区をまたいだりしてはいたけれど。まあ乱暴に言ってしまえば、村全体が血の濃い薄いの差はあれ、ほとんど親戚みたいなもんだった。両親とも外の人間だった僕なんかは結構珍しいわけ。
こんな環境では婚姻ってのはかなり面倒になる。あまり近すぎる親族と結婚したりすると、あとが色々大変だろう?
そこで起こってしまった村を二分する抗争なんだが、こいつがまたこの婚姻問題に拍車をかけた。「あの地区の人は泥棒なんだから、結婚してはいけません」なんて言ってられないんだ実際。
こういう背景があって、この大きな抗争も、結局のところ10年かそこらで終わってしまった。
もちろん解決したわけじゃなくて(うちの地区の分社には、本社から新しい御神体をもらってきてたので、実際の問題は解決してたとも言えるけど)、皆この事件をなかったことにしようと、忘れてしまおうとしたんだ。
だけどここで邪魔するのも閉鎖的田舎の排他根性。
表向きは何事も無かったかのように接してる人たちも、その内心ではお互いの事を嫌ったり罵ったりしてた。こういうときに隠語めいた「村裂き鏡」という言葉は大流行したようだ。まあそれも色々大人の事情があるんだから、とそのうち口にされなくなった。
口にされなくなったよ、大人の事情がわかる連中の間ではね。
子供ってやつは妙に聡いくせに、大人の事情には無頓着だ。自分の親が誰を嫌っているのか、ようく存じてらっしゃる。そしてそれを口にしない理由には気付かない。
「むらさきかがみ」という言葉の魔力もあったんだと思う。ことの事情を知らない子供たちは、ただ中核にある「むらさきかがみ」を理由に、いじめや喧嘩や派閥化を行った。ええ、もちろん後ろで一部の大人が煽ってたなんて、僕はまったく考えてませんとも。
そろそろ全貌が見えてきたと思う。
そう、子供たちが面倒な事件を思い出させないように、「むらさきかがみ」に大人の誰かが作り話をくっつけたんだ。
「その言葉を大人になるまで覚えていたら死んでしまうよ」
結局、その作り話自体が子供たちにうけてしまって、「むらさきかがみ」自体は忘れられることはなかったけれど。しかし事実の隠蔽にはこちらのほうが良かったようだ。
あとに残ったのは「紫鏡という言葉を20歳まで覚えていたら死んでしまう」という都市伝説と、誰も御神体を盗めないように針金でぐるぐる巻きにされた祠だけになった。
・・・うん、言いたいことはわかる。
どうして僕がこの話を知っているのか。
何度か話したと思うけど、僕の両親は、あの村の出身じゃない。母は嫁入りして来たんだが、父は子供の頃によそから引っ越してきたんだ。
僕はこの話を父から聞いた。
たぶん父は直接この村の抗争と関わりになる立場じゃなかったから、気にせずに僕に話したのだろうと思う。
父が「御神体は鏡だ」と言い切った数少ない人間の一人だとか(また後日聞いたら「知らない」と言った)、子供の頃からやんちゃでいたずらばかりしてたとか(地元の人間なら考えもしないことをやったとか)、信仰や迷信を恐れないとか(かと思うと妙に敬して遠ざける時があるとか)いうのは、まったくもって関係ない話だと思う。
むらさきかがみ、知ってるかな。
その言葉を20歳まで覚えていたら死んでしまうという一種の都市伝説なんだけど、僕はこの話の出所に一つ心当たりがある。
期待していたら悪いけれど、怖い話でも不思議な話でもまったくないんだ。
それでももしよかったら、ちょっと長話につきあってほしい。
都市伝説にありがちな、数多い「噂の真相」ってやつだとでも思ってね。
僕の住んでいた村は、村とは言っても千人単位の人間が暮らしている場所だった。
それだけ広いと「村」という区分一つでは不便なので、6つだか7つだかの「山」とか「津」とかわかりやすい名前のついた地区に分割されていた。
さて、僕の住んでいる地区には一つの神社があった。小さな鳥居が一つとこれまた小さな社殿が一つしかないもので、当然住み込みの神主などいるはずもなく、地区の人間が当番を決めて掃除にくるだけという、本当に小さな神社だった。
この神社は別の地区にあるそこそこ大きな(あくまでそこそこ、ね)神社の分社で、おそらくは本社のある地区まで歩くのが負担とならぬよう、出張所のように作られたのだろうと思われた。
この分社の御神体を僕は見たことがなかった。しかし本社の立派な社殿(うちの地区の神社と比較すれば、それはもう立派だった)の奥に大きめの鏡が飾られていたことを考えると、やはり分社の御神体も鏡であったのだろう。
その小さな分社の社殿の後ろには、これまた小さな苔むした石造りの祠があって、やはり石造りの観音開きのその扉が、無骨な針金でぐるぐる巻きにされていたことを覚えている。
子供ながらに「神様を閉じ込めるとはなんと罰当たりな」と思ったものだが、これにはちゃんと理由があった。
覚えておいて欲しい。このぐるぐる巻きの祠は、「むらさきかがみ」に大きく関係しているんだ。
僕が生まれるずっと前の話だ。と言っても外から引っ越してきた父が知っていた話だからそんなに昔でもない。
僕が住んでる地区でも立派な神社がある地区でもない、また別の地区でのことだ。
どういう理由か分からないけれど、そこにも一つ分社を作ろうという話になった。うん、まあ多分、参拝に行くのが遠いとか、やっぱりそういう理由だったんじゃないかなあ。
さて分社を作るっていうことは、神様を分割させなきゃならない。もちろん御神体をバキっと割るわけにはいかないから、別の御神体候補を持ってきて、「すみませんが、こちらに半分移っていただけないでしょうか」と丁重にお迎えするわけだ。これは立派な、しかも大事なお祭りなわけで、ごくごく限られた人間少数だけが、神主さんの指示のもとで厳密なしきたり通りに行う。
そういうわけで儀式の準備をしたらしいんだけど、どうしてそんなことになったのか、新しい分社の神様は、本社じゃなくて僕の地区にある御神体から分けてもらうことになったらしい。
どう考えてもこれが不幸の原因なんだ。なんでそんなことになったんだか。
ちゃんと儀式は終わって、無事に新しい分社はできた。ところが、だ。僕の地区の御神体がどこかに行っちゃった。
「儀式のときに無くなったんだ」とか、「いやちゃんと返したはずだ」とか、当然のように二つの地区で揉めに揉めた。いろいろ情報が錯綜するうちに双方だんだん苛立ってきて、「儀式なんかやってない。おまえらが勝手に盗んだんだ」とか「言いがかりだ、そもそもおまえらの所から何か借りた覚えは無い」とかひどい意見まで出始めた。
もちろん神主さんや儀式に関わった人、それに別に地区に人々も事態を収めようと色々奔走したんだと思う。でも悲しいかな、僕の村はいわゆる閉鎖的な田舎で、互いに互いを相容れない敵と認識してしまった以上、地区という名の派閥に分かれての抗争は激化する一方だった。
やがて抗争は別の地区も巻き込んで、村を二分する争いになった。
どっちの地区に味方するか、で別の地区同士が、ひどいときは地区内でも喧嘩しあったらしい。
いきなりなんだけど、本殿の御神体が鏡なんだったら、うちの分社の御神体もたぶん鏡だろうって話はしたよね。もちろん新しい分社の御神体も鏡だったんだろうと僕は思っている。だいたい、モノを「うつす」ってのに鏡というものは最適じゃないだろうか。そのへんの神社にたくさん鏡が置いてあるのは、そういうことじゃないかな。
なんでこんな推測で話すのかというと、僕の知り合いには実際のところ御神体がなんなのか答えられる人が少なかったんだ。大半が知らないか、たまに「鏡だ」と答える人が少数いるだけで、しかもその人たちに「見たことあるの」と聞いたら誰もが否定した。それを知ってるのは神主さんを初めとした、ほんとうに一握りの人だけなんだろう。
そういうわけで正体もわからないまま行方不明になった御神体だったけれど、僕と同じように鏡だと考えた人のうちの誰かが、揶揄を込めて「村裂き鏡」と呼び始めた。仲裁しても収まらない、それどころか自分たちまで巻き込んで争い続ける二つの地区に呆れ果てた誰かだったんだろう。
「村裂き」と「紫」がかけてあるんだろうってことは、今の僕にはすぐに想像できる話で。呼び始めた誰かさんは、神主さんか、それとも分社の儀式に立ち会った御神体を知っている誰かだったのかもしれない。鏡自体が紫じゃなくても、それを包んでいる袱紗が高貴や貴重をあらわす紫色だったってことは十分にありうると思う。
もちろんこの段階では、20歳まで覚えていたら死んでしまう、なんて話はなかったようだ。
僕の村は田舎にありがちなように、そのへんいたるところに親戚関係があったりする。地区内だったり地区をまたいだりしてはいたけれど。まあ乱暴に言ってしまえば、村全体が血の濃い薄いの差はあれ、ほとんど親戚みたいなもんだった。両親とも外の人間だった僕なんかは結構珍しいわけ。
こんな環境では婚姻ってのはかなり面倒になる。あまり近すぎる親族と結婚したりすると、あとが色々大変だろう?
そこで起こってしまった村を二分する抗争なんだが、こいつがまたこの婚姻問題に拍車をかけた。「あの地区の人は泥棒なんだから、結婚してはいけません」なんて言ってられないんだ実際。
こういう背景があって、この大きな抗争も、結局のところ10年かそこらで終わってしまった。
もちろん解決したわけじゃなくて(うちの地区の分社には、本社から新しい御神体をもらってきてたので、実際の問題は解決してたとも言えるけど)、皆この事件をなかったことにしようと、忘れてしまおうとしたんだ。
だけどここで邪魔するのも閉鎖的田舎の排他根性。
表向きは何事も無かったかのように接してる人たちも、その内心ではお互いの事を嫌ったり罵ったりしてた。こういうときに隠語めいた「村裂き鏡」という言葉は大流行したようだ。まあそれも色々大人の事情があるんだから、とそのうち口にされなくなった。
口にされなくなったよ、大人の事情がわかる連中の間ではね。
子供ってやつは妙に聡いくせに、大人の事情には無頓着だ。自分の親が誰を嫌っているのか、ようく存じてらっしゃる。そしてそれを口にしない理由には気付かない。
「むらさきかがみ」という言葉の魔力もあったんだと思う。ことの事情を知らない子供たちは、ただ中核にある「むらさきかがみ」を理由に、いじめや喧嘩や派閥化を行った。ええ、もちろん後ろで一部の大人が煽ってたなんて、僕はまったく考えてませんとも。
そろそろ全貌が見えてきたと思う。
そう、子供たちが面倒な事件を思い出させないように、「むらさきかがみ」に大人の誰かが作り話をくっつけたんだ。
「その言葉を大人になるまで覚えていたら死んでしまうよ」
結局、その作り話自体が子供たちにうけてしまって、「むらさきかがみ」自体は忘れられることはなかったけれど。しかし事実の隠蔽にはこちらのほうが良かったようだ。
あとに残ったのは「紫鏡という言葉を20歳まで覚えていたら死んでしまう」という都市伝説と、誰も御神体を盗めないように針金でぐるぐる巻きにされた祠だけになった。
・・・うん、言いたいことはわかる。
どうして僕がこの話を知っているのか。
何度か話したと思うけど、僕の両親は、あの村の出身じゃない。母は嫁入りして来たんだが、父は子供の頃によそから引っ越してきたんだ。
僕はこの話を父から聞いた。
たぶん父は直接この村の抗争と関わりになる立場じゃなかったから、気にせずに僕に話したのだろうと思う。
父が「御神体は鏡だ」と言い切った数少ない人間の一人だとか(また後日聞いたら「知らない」と言った)、子供の頃からやんちゃでいたずらばかりしてたとか(地元の人間なら考えもしないことをやったとか)、信仰や迷信を恐れないとか(かと思うと妙に敬して遠ざける時があるとか)いうのは、まったくもって関係ない話だと思う。
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