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適当に駄文。 書き物は妖怪メイン・・・でもないかも。 TRPGとか電源ゲーとかの話も。
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ねむい・・・

+ + + + + + + + + +
恐怖症
死んだ父が田舎に一軒の家を持っていたと知ったのは、その形見分けの席でのことだった。
弁護士曰く、庭付きの広い家で周囲は静か。立派な財産だ、とのことであった。
住むには交通の便が悪く、売り払うには買い手もつかぬ、ということだ。そして相続税は恐ろしくかかる。
「おまえ、住んでみたらどうだ」
などと兄が私に言ったのは、人も土地も、まとめて厄介払いしたいという心積もりであったのだろう。
働かずとも食うには困らぬ金もあり、兄夫妻と年老いた母とともに暮らすのにも嫌気がさしていたこともあって、私は軽く
「ああ、いいよ」
と答えたのであった。
「どうせ引っ越すならお母さんも一緒に」
などとさらに厄介払いしたがる兄嫁は歯を剥いて黙らせ、私はこうして一城の主となった。

くだんの家は、長年人も住まなかったわりには状態もよく、数箇所の雨漏りの修繕と大掛かりな掃除を行えば、すぐにでも住めそうな状態だった。
だったので、そうした。
手伝わされた兄嫁はぶつぶつと文句を言っていた。
母が雑巾がけしながら
「お父さん、どうしてこの家のこと教えてくれなかったのかねぇ」
としきりに呟いていた。
一人で住むには広すぎる家で、部屋の数も多かった。
家財道具の搬入などしながら、私も思わず
「やっぱり母さんも来ないか」
などと口走ったものだ。
「あんたと二人で暮らしたら、疲れるだけだし」
と笑った母は、続けて言った。
「庭に柿の木あったろう。あれに実がなったら送ってな。それだけで嬉しいき」
たしかに庭に一本の木が立っていた。
高さ10メートルにはなろうかという大きな木で、手入れもされていないため枝が四方八方に腕を伸ばしていた。
それに登って実をもげというのは、かなりの大仕事のようだった。

女たちを帰らせてから、私のこの家での最初の夜が始まった。
もういくら酒を飲んでも文句を言う者もいない。
嬉々として手酌で呑み続ける私の耳に、しかし、魂も凍るような音が響いた。
びょうびょうと
ごうごうと
風か嵐か、泣き叫ぶような音だった。
すぐに私は思い至った。
庭の柿の木である。
あの無遠慮に育ちまくった大木が、風に吹かれて泣き喚いているのだ。
折れたりせぬだろうな、と不安になって雨戸を開けると、たしかに柿の木が風に揺れていた。
しかし聞こえる音は、いや声は、柿の木のものではなかった。
高い木の梢に、10歳くらいの少女がしがみついていた。
風が吹くたびにワサワサと揺れる木にかじりつき、和服の少女が泣き叫んでいた。
ただの少女でないのは一目でわかった。
風になぶられる黒髪の合間から、熾き火のように赤く光る瞳が見え隠れしていた。
少女の和服の袖が風に翻り、枝が上下に左右に揺さぶられ、黒髪が乱れて木に絡みついた。
少女はただひたすら泣き叫んでいた。

夜が明けて少女の姿が見えなくなった柿の木を、私は切り倒すことに決めた。
邪魔なのである。色々な意味で。
もし毎晩出られても困る。寝不足になる。酒の肴には趣味が悪すぎる。
業者を呼んだ。
明日には仕事にかかれます、と言われた。今日すぐには無理だということだ。
嘆息してその日の夜を迎えたが、泣き叫ぶ少女はやはりまた現れた。
「高いところが怖いのか? そんなところで何してるんだ?」
私の呟きも聞かず、少女はひたすら泣き続けた。

翌日。
業者が木を切り倒した。幹を切り、根を掘り起こした。
かなり深く根付いていたようで、作業は夕方まで続いた。
業者が帰ってから、私は雨戸を閉めず、庭を眺めながら酒を飲んだ。
日が暮れ、夜が来て、一升瓶が半ば空になった頃。
今はもう無い木の頂の高さに、ふわりと少女の影が浮かんだ。
少女の頭は、地面から約10メートルのところにあった。
強い風が吹き始めた。
木が無いのが不思議なのか、少女は小首を傾げた。そしてそのままの姿勢で、ゆっくりゆっくりと地面に向かって降りてきた。
地面から8メートル。
少女が得心したように笑みを浮かべたのが見えた。
地面から6メートル。
チロチロと燃える赤い瞳が、邪悪そうに細められた。
地面から4メートル。
少女が口を開いた。
「この家に住まう者に仇なさんとして、ながの年月が過ぎたが」
地面から2メートル。
「よりついた木の高さに阻まれて、今まで何もできなんだ」
ゼロ。
「よくぞ自由にしてくれた。さあ存分に喰ろうてくれようぞ」
マイナス2。
「・・・あれ?」
少女は地面に消えてしまっていた。
私の脳裏に、夕方に帰った業者の言葉が蘇った。
「根が深かったんで、今日中には終わりませんでした。穴は明日埋めるんで、間違って落ちたりしないでくださいね」
あの少女、今度は暗いのが怖いとか言って泣かねばよいのだが。
そう思いつつ私は雨戸を閉めた。
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