適当に駄文。
書き物は妖怪メイン・・・でもないかも。
TRPGとか電源ゲーとかの話も。
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鬼騙(モノガタリ)之四:樹木子
初夏の風が吹き込む教室でのことだ。弁当をつついている千夏に、すでに昼食を終えた風音が声をかけた。
「唐突でなんだが、今度の日曜日は暇か」
「別に用事は無いけど」
「うむ、では花見に行こう」
初夏。学校にも数本の桜の木があるが、すべて青々とした葉をつけている時期である。
「唐突っていうか、一ヶ月くらい遅くないかなぁ」
「近くの山のハイキングコースを外れたところにな、まだ満開の樹が一本だけあるのだ。こういう珍しいものでもないと、花見なんてしないからな」
「まあ高校生で花見する人って、いないわけじゃないだろうけど、少ないだろうね」
「あと2年もない高校生活、できることはやっておくべきだ。べきだ。やりたい。やるぞ。思いついたのに実行しなかったなんて、くだらない後悔はしたくないからな」
「はいはい」
他に誰が行くのか、とは千夏は聞かなかった。どうせいつものメンバーなのだろう。
目的地が電車で二駅ほどなので、まずは駅で集合ということになっていた。
案の定、いつものメンバーであった。千夏、風音、雪夫の三人とも多少山を歩くということで、動きやすい服装をしてナップザックなりリュックなりに弁当と飲み物を用意してきている。
集合時間の五分前とまだ多少の余裕はあったが、卓真だけが来ていない。
券売機の前をうろうろと歩きながら、風音が不満げに呟いた。
「集団行動では時間前に集合しておくのが常識だろうに。そもそも女性を待たせるというのがだな」
壁にもたれて文庫本を読んでいた雪夫が口を開いた。
「一時間も前に着いておいて、待たせるなとか言われてもなぁ」
「万が一を考えて早めに来ただけだ。そのくらいの考慮はするべきじゃないか」
よほど花見が楽しみなのか、いつになく必死に反論している風音であった。千夏はその様子に苦笑して言った。
「まだ約束の時間じゃないんだし、落ち着こうよ」
そこでようやく待ちに待った卓真らしき影が駆けてきた。しかしそれを小走りで追いかける人影が一つ。
遠くて顔はよく見えないが、和服の女性だった。まとめていない長い黒髪が赤い和装に映える。
女性に呼び止められたのか、卓真が立ち止まって振り返り、何事か喋っている様子であったが、明らかに肩を落として女性から何かを受け取り
「僕には、あの風呂敷包みがあれに見えるんだが、柳川」
「ああ、私にもあれに見えるぞ、竹井」
片手に提げた大きな四角い風呂敷包みと肩から下げたバッグを気にしつつ早足で歩いてきた卓真は、心底すまなそうな顔で三人に言った。
「ごめん、花見に行くって言ったら、姉貴が変に誤解して重箱を」
あの人はお姉さんなのかと得心しつつ、千夏は手を振っている女性に挨拶代わりに頭を下げた。それに返して深々と頭を下げた女性の長い髪が、細い肩の上を滑るように流れる。
こちらも頭を下げていた風音が、時計を確認しつつ言った。
「ご厚意はありがたく受け取るとして、もうすぐ時間だぞ。みんな切符の準備はいいか」
電車の中では、卓真が質問攻めにあった。
「物部くんのお弁当、いつもお姉さんが作ってたんだ」
「俺は料理できないし、今は二人で暮らしてるしな」
「いつも持ってきているあの特大のおにぎりは、あの人が作っていたのか」
「なんか色々こだわりがあるみたいで、お弁当といったら握り飯だとか、花見には重箱だとか」
「そんなことより僕は容姿のほうが気にかかる。遠めには美人に見えたが、どうなんだ物部」
「あーうんそうだな、兄弟の中ではトップのほうかも」
「ああ、物部くん兄弟多いんだ?」
「数はいるなぁ。ああ、全員血は繋がってないんだけど」
最後の言葉で、千夏は言葉を失ってしまった。あまり立ち入ってはいけないことに立ち入ったのではなかろうか。以前聞いた友人や出身地の話などに関係があるのかもしれない。風音も雪夫も顔を見合わせて口をつぐんでしまった。
重くなった雰囲気に気づいて慌ててフォローしようと口を開きかけた卓真を、雪夫が軽く手を挙げて制した。
「確認しておきたいことがあるんだ、物部」
風音も深々と頷いて同意を示した。
「うむ、大事なことなので正直に答えて欲しい」
「つまりおまえは、義理で美人で料理のできるお姉さまと二人っきりで暮らしているのか。締めるべきだな、柳川」
「ああ、吊るすべきだな、竹井」
「ごめんね、物部くん、馬鹿な連中で」
「そういう橘さんも、どうしてその二人よりも俺を見る目のほうが冷たいのですか…」
目当ての桜は、ハイキングコースからは見えない場所にあった。一面が萌える緑の中、緩やかな斜面を足元に気をつけながら歩いていくと、不意に紅色の色彩が出迎えた。
他の桜はもうとっくに散ってしまったというのに、一本だけまだ満開のままだ。
「これ本当に桜か?」
「葉っぱの色もおかしいね。枯れてるみたい」
「山桜だよ。それにしたって赤みが強いなぁ」
「赤い桜の下には死体が埋まってるって、モトネタなんだっけ」
「今度調べておこう。千夏、シートはもっと樹の近くで広げてくれ。大丈夫、死体は埋まってないから」
「わかってるよっ」
わいわいと騒ぎながらハイキングシートを敷いて、弁当を広げる。卓真が持たされた重箱のせいで、想定よりも豪華な昼食になってしまった。
「このちらし寿司、綺麗」
「すごい気合入れて作ってたからなぁ」
「どうせなら、お姉さんも誘えばよかったな」
花見に来たはずだが、花などあまり見ずに食事と会話に熱中する。三人が自前の弁当を持っているので、重箱の料理は適当につつくだけになってしまうが、卓真が健啖ぶりを示したので残り物はあまり出ないだろうと思われた。
ふと首をかしげた風音が卓真にきいた。
「物部の弁当はこの重箱だろう。そっちのバッグには何が入ってるんだ」
「こっちも姉貴が持たせたやつだなぁ」
困った顔でバッグの口を開けると、茶褐色の大きなガラス瓶が見えた。
「未成年が飲むと怒られる液体」
「なんて物を持って来るんだ。見つかったら色々うるさいぞ。さっさと証拠隠滅だ」
風音の言葉に苦笑しながら、卓真が一升瓶の封を切った。飲んでしまえば証拠は残らない、などと言うつもりらしい。呆れる千夏を尻目に雪夫まで「少しだけなら手伝ってあげないでもないぞ」などと言っている。
この日、千夏は生まれて初めて酔いつぶれることになった。
紅葉の季節も過ぎたのに、山へ出かけようなどとおかしいと思うべきでした。
その頃しばらく彼と出かける機会がなかったので、誘われたのが嬉しくてそこまで考え付かなかったのです。
「ちょっとむこうを見てみよう」なんて言って道を離れるから「やめなさいよ危ないわ」などと答えつつ追いかけました。わざと足を滑らせて可愛らしい悲鳴をあげてすがりついてみようかなんて、そんなことに頭を使ってる場合じゃなかったのに。
ずっと隠して歩いていたのでしょう、いきなり金槌でひどく殴られました。目の前が真っ白になって転んでしまって、何度も何度も殴られて、真っ白だった視界がだんだん暗くなっていって。とうとう声も上げられなくなりました。呼吸もできなくなりました。心臓だって動かせなくなってしまいました。
まったく動けなくなったわたしを、彼は木の下に埋めました。いつもは「肉体労働は苦手だ」なんて言ってったのに、ちゃんと小さなスコップも軍手も用意していて、わたしを埋める穴を掘るのに汗かきながら頑張って。それから彼の姿は見てません。
季節も季節でしたから、土の下は冷たかったです。獣も虫も植物すらもちょっとおやすみする時期でしたから、私は長いことそのままの姿で土に埋もれていました。
やがて春が来て、だんだん暖かくなってきて、起きたばかりの虫たちがわたしを解体しました。温度の上がった土がわたしを分解しました。そして分解されたわたしのかけらを、この桜の樹は思いっきり吸い上げて花を咲かせたのです。
桜の樹は喜びました。こんなに元気になったのは久々でしたから。もっと元気でありたくて、でもわたしの体はあっというまに吸い尽くされてしまって、困ってしまっていた桜の樹の下に、今日三人の人間がやってきました。桜の樹は大喜びです。
だから
はやく起きなさい
飛び起きた千夏の体は真紅に染まっていた。慌てて見回すと地面もハイキングシートも倒れ付している風音も雪夫も、一面みな真っ赤だ。
一陣の風が吹いて、今度は宙に真紅が舞った。
桜の花びらが盛大に散っていたのであった。
「あ、起きたか」
卓真の声で背後に首をめぐらすと、花も葉も一切合財散ってしまった桜の樹を見上げている姿があった。
「なんか一気に花も葉っぱも散っちゃったよ。枝も枯れきってるみたいだし。最期の力で咲きつづけてたんだろうなぁ」
しみじみと言った卓真であったが、すぐに千夏のほうへ顔を向けてニヤリと笑った。
「しかし橘さん、寝相悪すぎ」
酔いつぶれて寝てしまったあとに動いたものか、千夏の上半身はシートからはみ出していた。先ほどまで桜の樹の根を枕にしていたらしい。
「風音と竹井くんは?」
「橘さんと同じくらいに潰れちゃったよ。みんな酒弱いなぁ」
見てみれば二人とも穏やかに寝息を立てている。
変な夢を見たのは千夏だけか。枕の悪さと飲みなれないアルコールのせいだと思いたかった。
「この桜、真っ赤だったね」
「赤かったね」
「桜の下には死体が埋まってるんだっけ」
「死体かどうかはしらないけど、なにかが埋まってて土の成分が他と大きく違えば、咲く花の色も違うだろうさ。ましてや寿命のきた樹なら、いろいろ普通とは変わってたんじゃないかな」
さきほどまで千夏の頭があった辺りの土は、他の場所に比べて下生えが少なそうであった。土の色も多少違っている気がする。まるで数ヶ月前に誰かが掘り返しでもしたかのように。
卓真が意地の悪そうな笑みを浮かべたまま問うてきた。
「どうする、掘ってみる?」
「ううん、やめとく」
「そうだね。枯れ木にいらないちょっかい出したら危なそうだ。さっさと引き上げようか」
さきほど見た夢をできるだけすぐに忘れてしまおうと、千夏は手早く後片付けを開始することにした。
初夏の風が吹き込む教室でのことだ。弁当をつついている千夏に、すでに昼食を終えた風音が声をかけた。
「唐突でなんだが、今度の日曜日は暇か」
「別に用事は無いけど」
「うむ、では花見に行こう」
初夏。学校にも数本の桜の木があるが、すべて青々とした葉をつけている時期である。
「唐突っていうか、一ヶ月くらい遅くないかなぁ」
「近くの山のハイキングコースを外れたところにな、まだ満開の樹が一本だけあるのだ。こういう珍しいものでもないと、花見なんてしないからな」
「まあ高校生で花見する人って、いないわけじゃないだろうけど、少ないだろうね」
「あと2年もない高校生活、できることはやっておくべきだ。べきだ。やりたい。やるぞ。思いついたのに実行しなかったなんて、くだらない後悔はしたくないからな」
「はいはい」
他に誰が行くのか、とは千夏は聞かなかった。どうせいつものメンバーなのだろう。
目的地が電車で二駅ほどなので、まずは駅で集合ということになっていた。
案の定、いつものメンバーであった。千夏、風音、雪夫の三人とも多少山を歩くということで、動きやすい服装をしてナップザックなりリュックなりに弁当と飲み物を用意してきている。
集合時間の五分前とまだ多少の余裕はあったが、卓真だけが来ていない。
券売機の前をうろうろと歩きながら、風音が不満げに呟いた。
「集団行動では時間前に集合しておくのが常識だろうに。そもそも女性を待たせるというのがだな」
壁にもたれて文庫本を読んでいた雪夫が口を開いた。
「一時間も前に着いておいて、待たせるなとか言われてもなぁ」
「万が一を考えて早めに来ただけだ。そのくらいの考慮はするべきじゃないか」
よほど花見が楽しみなのか、いつになく必死に反論している風音であった。千夏はその様子に苦笑して言った。
「まだ約束の時間じゃないんだし、落ち着こうよ」
そこでようやく待ちに待った卓真らしき影が駆けてきた。しかしそれを小走りで追いかける人影が一つ。
遠くて顔はよく見えないが、和服の女性だった。まとめていない長い黒髪が赤い和装に映える。
女性に呼び止められたのか、卓真が立ち止まって振り返り、何事か喋っている様子であったが、明らかに肩を落として女性から何かを受け取り
「僕には、あの風呂敷包みがあれに見えるんだが、柳川」
「ああ、私にもあれに見えるぞ、竹井」
片手に提げた大きな四角い風呂敷包みと肩から下げたバッグを気にしつつ早足で歩いてきた卓真は、心底すまなそうな顔で三人に言った。
「ごめん、花見に行くって言ったら、姉貴が変に誤解して重箱を」
あの人はお姉さんなのかと得心しつつ、千夏は手を振っている女性に挨拶代わりに頭を下げた。それに返して深々と頭を下げた女性の長い髪が、細い肩の上を滑るように流れる。
こちらも頭を下げていた風音が、時計を確認しつつ言った。
「ご厚意はありがたく受け取るとして、もうすぐ時間だぞ。みんな切符の準備はいいか」
電車の中では、卓真が質問攻めにあった。
「物部くんのお弁当、いつもお姉さんが作ってたんだ」
「俺は料理できないし、今は二人で暮らしてるしな」
「いつも持ってきているあの特大のおにぎりは、あの人が作っていたのか」
「なんか色々こだわりがあるみたいで、お弁当といったら握り飯だとか、花見には重箱だとか」
「そんなことより僕は容姿のほうが気にかかる。遠めには美人に見えたが、どうなんだ物部」
「あーうんそうだな、兄弟の中ではトップのほうかも」
「ああ、物部くん兄弟多いんだ?」
「数はいるなぁ。ああ、全員血は繋がってないんだけど」
最後の言葉で、千夏は言葉を失ってしまった。あまり立ち入ってはいけないことに立ち入ったのではなかろうか。以前聞いた友人や出身地の話などに関係があるのかもしれない。風音も雪夫も顔を見合わせて口をつぐんでしまった。
重くなった雰囲気に気づいて慌ててフォローしようと口を開きかけた卓真を、雪夫が軽く手を挙げて制した。
「確認しておきたいことがあるんだ、物部」
風音も深々と頷いて同意を示した。
「うむ、大事なことなので正直に答えて欲しい」
「つまりおまえは、義理で美人で料理のできるお姉さまと二人っきりで暮らしているのか。締めるべきだな、柳川」
「ああ、吊るすべきだな、竹井」
「ごめんね、物部くん、馬鹿な連中で」
「そういう橘さんも、どうしてその二人よりも俺を見る目のほうが冷たいのですか…」
目当ての桜は、ハイキングコースからは見えない場所にあった。一面が萌える緑の中、緩やかな斜面を足元に気をつけながら歩いていくと、不意に紅色の色彩が出迎えた。
他の桜はもうとっくに散ってしまったというのに、一本だけまだ満開のままだ。
「これ本当に桜か?」
「葉っぱの色もおかしいね。枯れてるみたい」
「山桜だよ。それにしたって赤みが強いなぁ」
「赤い桜の下には死体が埋まってるって、モトネタなんだっけ」
「今度調べておこう。千夏、シートはもっと樹の近くで広げてくれ。大丈夫、死体は埋まってないから」
「わかってるよっ」
わいわいと騒ぎながらハイキングシートを敷いて、弁当を広げる。卓真が持たされた重箱のせいで、想定よりも豪華な昼食になってしまった。
「このちらし寿司、綺麗」
「すごい気合入れて作ってたからなぁ」
「どうせなら、お姉さんも誘えばよかったな」
花見に来たはずだが、花などあまり見ずに食事と会話に熱中する。三人が自前の弁当を持っているので、重箱の料理は適当につつくだけになってしまうが、卓真が健啖ぶりを示したので残り物はあまり出ないだろうと思われた。
ふと首をかしげた風音が卓真にきいた。
「物部の弁当はこの重箱だろう。そっちのバッグには何が入ってるんだ」
「こっちも姉貴が持たせたやつだなぁ」
困った顔でバッグの口を開けると、茶褐色の大きなガラス瓶が見えた。
「未成年が飲むと怒られる液体」
「なんて物を持って来るんだ。見つかったら色々うるさいぞ。さっさと証拠隠滅だ」
風音の言葉に苦笑しながら、卓真が一升瓶の封を切った。飲んでしまえば証拠は残らない、などと言うつもりらしい。呆れる千夏を尻目に雪夫まで「少しだけなら手伝ってあげないでもないぞ」などと言っている。
この日、千夏は生まれて初めて酔いつぶれることになった。
紅葉の季節も過ぎたのに、山へ出かけようなどとおかしいと思うべきでした。
その頃しばらく彼と出かける機会がなかったので、誘われたのが嬉しくてそこまで考え付かなかったのです。
「ちょっとむこうを見てみよう」なんて言って道を離れるから「やめなさいよ危ないわ」などと答えつつ追いかけました。わざと足を滑らせて可愛らしい悲鳴をあげてすがりついてみようかなんて、そんなことに頭を使ってる場合じゃなかったのに。
ずっと隠して歩いていたのでしょう、いきなり金槌でひどく殴られました。目の前が真っ白になって転んでしまって、何度も何度も殴られて、真っ白だった視界がだんだん暗くなっていって。とうとう声も上げられなくなりました。呼吸もできなくなりました。心臓だって動かせなくなってしまいました。
まったく動けなくなったわたしを、彼は木の下に埋めました。いつもは「肉体労働は苦手だ」なんて言ってったのに、ちゃんと小さなスコップも軍手も用意していて、わたしを埋める穴を掘るのに汗かきながら頑張って。それから彼の姿は見てません。
季節も季節でしたから、土の下は冷たかったです。獣も虫も植物すらもちょっとおやすみする時期でしたから、私は長いことそのままの姿で土に埋もれていました。
やがて春が来て、だんだん暖かくなってきて、起きたばかりの虫たちがわたしを解体しました。温度の上がった土がわたしを分解しました。そして分解されたわたしのかけらを、この桜の樹は思いっきり吸い上げて花を咲かせたのです。
桜の樹は喜びました。こんなに元気になったのは久々でしたから。もっと元気でありたくて、でもわたしの体はあっというまに吸い尽くされてしまって、困ってしまっていた桜の樹の下に、今日三人の人間がやってきました。桜の樹は大喜びです。
だから
はやく起きなさい
飛び起きた千夏の体は真紅に染まっていた。慌てて見回すと地面もハイキングシートも倒れ付している風音も雪夫も、一面みな真っ赤だ。
一陣の風が吹いて、今度は宙に真紅が舞った。
桜の花びらが盛大に散っていたのであった。
「あ、起きたか」
卓真の声で背後に首をめぐらすと、花も葉も一切合財散ってしまった桜の樹を見上げている姿があった。
「なんか一気に花も葉っぱも散っちゃったよ。枝も枯れきってるみたいだし。最期の力で咲きつづけてたんだろうなぁ」
しみじみと言った卓真であったが、すぐに千夏のほうへ顔を向けてニヤリと笑った。
「しかし橘さん、寝相悪すぎ」
酔いつぶれて寝てしまったあとに動いたものか、千夏の上半身はシートからはみ出していた。先ほどまで桜の樹の根を枕にしていたらしい。
「風音と竹井くんは?」
「橘さんと同じくらいに潰れちゃったよ。みんな酒弱いなぁ」
見てみれば二人とも穏やかに寝息を立てている。
変な夢を見たのは千夏だけか。枕の悪さと飲みなれないアルコールのせいだと思いたかった。
「この桜、真っ赤だったね」
「赤かったね」
「桜の下には死体が埋まってるんだっけ」
「死体かどうかはしらないけど、なにかが埋まってて土の成分が他と大きく違えば、咲く花の色も違うだろうさ。ましてや寿命のきた樹なら、いろいろ普通とは変わってたんじゃないかな」
さきほどまで千夏の頭があった辺りの土は、他の場所に比べて下生えが少なそうであった。土の色も多少違っている気がする。まるで数ヶ月前に誰かが掘り返しでもしたかのように。
卓真が意地の悪そうな笑みを浮かべたまま問うてきた。
「どうする、掘ってみる?」
「ううん、やめとく」
「そうだね。枯れ木にいらないちょっかい出したら危なそうだ。さっさと引き上げようか」
さきほど見た夢をできるだけすぐに忘れてしまおうと、千夏は手早く後片付けを開始することにした。
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某MMOの属性武器の通称と同じなのは嫌なので、こっちを名乗る。
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