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適当に駄文。 書き物は妖怪メイン・・・でもないかも。 TRPGとか電源ゲーとかの話も。
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つづけて
ここまで書いた以上、サルベージ自体は完了だな。
一年半もかけてしまったか。

ええ、一部の友人が覚えているかもしれないキャラが出ています。

追記
確認取るつもりで忘れていました、他人様が作ったキャラを勝手に一部使ってます。
事後にもかかわらず快諾してくれてありがとう、牙椰子氏。
鬼語(モノガタリ)之弐:おとろし→

+ + + + + + + + + +
 鬼語(モノガタリ)之壱:片輪車
 ぎぃぎぃとなにかが軋む音が、薄暗い病院の廊下に響く。
 午前二時。むかしむかしは『草木も眠る』と言われた時間である。しかしもちろん現代の大病院では看護士も巡回していようし、防犯カメラも動いているはずである。
 ぎぃぎぃとなにかが軋む音が、薄暗い病院の廊下に響く。それを聞く者は誰一人としてない。
 牛車である。現代の病院の廊下を、今は使われぬ乗り物が進む。
 牛車とは言うが、牽く牛はいない。主人を隠す幌もない。さらには車輪が一つしかない。にもかかわらず、牛車は傾きもせずにゆっくりと進む。
 軋みの音を立てる牛車には、一人の女が乗っている。
 女の顔はわからない。振り乱した髪が顔を覆い、体を隠し、ただその髪の長さとおぼろにわかる体格から女であろうと推測されるだけである。
 いったいどこへ行こうというのか、あやしの牛車は軋む音を立てて進み続ける。
 見咎める者は誰一人としていない。ただ一匹、小さな白蛇が廊下の角から首を出して牛車を見送っていた。
 どこかで赤子の泣く声が聞こえたかもしれなかった。

 髪の長い女性が、小さな喫茶店の一席で携帯電話を睨みつけていた。
 感情を感じさせない冷たい顔立ちと一部の隙も無く着こなしたスーツ姿からは、仕事中のキャリアウーマンを想起させる。
 女性の携帯電話には、新生児連続誘拐事件のニュースが表示されていた。
 難事件に頭を悩ます女刑事、というわけではない。
 仲間たちから『清姫』と伝説の妖女の名で呼ばれる彼女は、少し特殊な仕事で口に糊する人間であった。
 ベルの音ともに喫茶店のドアが開き、学生服姿の少年が入ってきた。少年はすぐに清姫を見つけ、小走りによって来た。
「きよ姉、ひさしぶり」
「ひさしぶりね」
 清姫は携帯電話を閉じ、少年へ微笑んだ。微笑もうとした。ちゃんと微笑んだだろうか? 笑顔など普段作らぬ彼女には、あまり自信が持てなかった。
 なにか気を紛らわせなければくだらぬ不安に飲み込まれそうで、いそいで少年と会話を続けた。
「学校はもう慣れたの」
「慣れた慣れた。勉強には慣れないけど」
 笑いながら答える少年に「友達はできたか」と聞こうとして、すぐにその言葉を飲み込んだ。肯定されたら自分は不機嫌になる、清姫にはその自覚があった。
 十年ほど前、彼女にも学園生活を送った経験があった。しかし彼女は学校には慣れなかったし、友達もできはしなかった。さらに言えばそれまでの日常生活にも慣れが生じたことはなかったし、友達が居た記憶もない。
 どうして自分はこうもネガティブな思考しかできないのか、とありがちなネガティブ思考をしながら清姫は少年へメニューを差し出した。
「好きなもの頼みなさい」
「ありがと」
 満面の笑みでメニューを開く少年を見ながら、清姫はふと思い出した疑問に困惑していた。
 目の前の少年は、今の生活でなんと名乗っていただろうか?
 もちろん、仲間内で呼ばれる通り名ならば覚えている。しかしそれは彼女にとっての『清姫』という名と同じく、あまり一般的に使うべき呼称ではない。
 さてどう呼びかけようかと思案していると、適当に注文を終えたらしい少年が声をかけてきた。
「で、きよ姉、仕事の手伝いだったっけ」
「ええ、ちょっと相談したいことがあってね」
 清姫は、そして目の前の少年は、俗に言う『拝み屋』に近い。
 人にあだなす怪異妖魅を相手に戦うものたちである。
 いま清姫が追っているのは、連続して新生児が行方不明になる事件であった。
「いくつかの病院に放っていた式が、片輪車を見つけたわ」
「へぇ今時、片輪車なんて出るんだ」
 運ばれてきたハンバーグを貪りながら、少年が応えた。
「見つけたんなら、あとは簡単だろ。もし強すぎて、きよ姉じゃ相手に出来ないってんなら、俺もてこずると思うよ」
「そもそも相手にできないの。妖怪じゃないわね、だれかの打った式だと思う」
 ただの本能のままに暴れる妖怪ではない、人間に使役される式神であるという。
 式(識)神とは、術者が自在に操る下僕のことではない。術者の意識・知識・認識によって構築された独自の論理公式が、術理によって実在化したものである。
 他者の使役する(式を打つ、と表現される)式神を力任せに破ることは、けっして不可能ではない。しかしそれはあまりに大きな労力が必要で、また相手の式神に壊滅的打撃を与えることにもなり、それは式を打った術者にも被害が及ぶことを意味する。その結果は、清姫たちにとってあまり喜ばしいことではない。
「子供をなくした母親の想念かと思って、近隣の該当する人間を調べたけど、ひっかからないのよね」
「そりゃ式神を手に入れたいなら本体探したほうがいいだろうけど。それはつまり俺に式を解析しろ、と」
「得意でしょ、そういうの」
「まあ、きよ姉は俺と違って直感で動く人だからなぁ」
「手伝ってくれたら、追加注文していいわよ」
「やるやる」
 喜び勇んだ少年は、学生服のポケットから小さなメモ帳を取り出した。
「そもそも片輪車ってなにか、からおさらいするよ」
「あなた、そういうメモいつも持ち歩いてるの」
「やぁ妖怪とか好きな奴らがクラスに居てさ。とりあえず反論したり、なんでも肯定したり、すごい怖がったり」
 つまりは友達ができたということか、と清姫は内心の嫉妬を抑えながら考えた。気のせいか少し女の匂いもする。
「で、おさらいだけど」

 片輪車の伝承は、簡単なものである。
 片輪の車にのった女性の怪異が、その姿を覗き見た母親のもとから子供をさらった。母親が「罪は自分にあるものを、なぜ子供をさらうのか」と嘆いたところ、その心に打たれた怪異は子供を返したという。

「ってとこだよな」
「だから子供を思う母親の想念かと思ったのだけど」
「それは被害者のほうだろ。で、片輪車ってのは実は輪入道と同じ妖怪らしくて」

 輪入道は、車輪の中央に男の顔がついた妖怪である。
 「此所勝母の里」と書いた札を貼っておくと、「母に勝つ」という言葉を嫌って近寄らぬという。また、片輪車と同じく姿を見た親の子供を害した話が残る。

「やっぱり親子の情念じゃないの」
「ちょっとは考えようぜ、きよ姉」
 少年が苦笑して言う。
「たしかに輪入道が嫌うのは『母に勝つ』だけどさ、いかつい顔のおっさん妖怪だよ。これが子供なわけないって」
 しかし片輪車にも輪入道にも、どちらの話にも子供の話が付きまとう。
 子供をなくした母親だけではなく、父親も捜査範囲にふくめるべきだっただろうか。もしくは逆に親をなくした子供か。
 考え込んだ清姫を見て、少年が笑って言った。
「片輪の車は何故走る?」
 子供をさらうためではなかろうか。
 いや違う、伝承の妖怪たちは、姿を見られたから子供をさらっただけである。
 なんのために走っていたのか?
 片輪の車は、何故。
 そもそも何故、片輪なのか?
 片輪車と輪入道は、同じ妖怪であるという。
 片輪しかない車に乗った女の怪異と、車輪に男の顔がついた怪異と。
 ああ、つまり。
 清姫は小さく舌打ちした。
「気に入らないわね」
「あれ、もしかして、俺って無駄骨」
「ええ、打ち返すわよ、あの式。知恵を貸してもらって悪いけど」
「別に俺は約束の追加注文させてくれれば、それでいいけど」

 ぎぃぎぃとなにかが軋む音が、薄暗い病院の廊下に響く。
 午前二時。むかしむかしは『草木も眠る』と言われた時間である。しかしもちろん現代の大病院では看護士も巡回していようし、防犯カメラも動いているはずである。
 ぎぃぎぃとなにかが軋む音が、薄暗い病院の廊下に響く。
 見咎めるものは、白い影ただ一つ。邪魔者に行く手をさえぎられ、片輪車の車輪が止まった。
 身に纏うのは白のひとえ。長い黒髪は飾りも縛り紐もなく、ただ背中に流すだけ。死装束かとも思えるその装いで、一人の女が片輪車へむかって歩み寄る。
「くだらないわね、あなたの想い」
 静かに語りかけた女は、言うまでも無く清姫である。
「子供がいれば別れなくてもすんだのかしら。それとも、子供でも居てくれれば、別れた悲しみを忘れられるのかしら」
 片輪車に乗る女怪が、清姫の言葉に声も無く身もだえした。乱れた髪がさらに狂おしく振り乱される。垣間見える頬に涙のあとが見えた気がしたが、清姫は容赦なく言葉を続けた。
「生き別れだか死に別れだかは知らないけれど、姑息な手段や代用品でどうこうできるようなちゃちな想いは、わたしの式にもわたしたちの仲間にも不要だわ。滅びなさい」
 片輪車の女怪が声無き絶叫をあげた。動きを止めていた一つだけの車輪が再び回り、見る間に加速して清姫を轢殺せんと突き進む。
 対する清姫は静かに片輪車を睨みすえて呟いた。
「勧請、不動の羂索よ」
 言葉と共にどこからか湧き出した五色の雲が、片輪車を取り巻いた。車は雲を突き破って進もうとするが、綿よりもやわらかく受け止められ、鉄よりも硬く拒絶された。
 ゆらゆらと漂う五色の雲に纏わりつかれ、片輪車は引くも戻るもできない。一つだけの車輪が病院の床を激しく削って回転し、嫌な音を立てた。
 清姫はその様子を冷たく見つめたまま、右手をまっすぐ上に上げた。ひとえの袖が肩まで落ちて、病的に生白い肌をさらす。
「勧請、倶利伽羅黒竜」
 清姫の言葉に従って五色の雲が黒ずみ、よじれ、一匹の巨大な黒蛇へと変化した。片輪車は黒蛇に巻きつかれた形になる。車の軋みが大きくなり、女怪も声なき声で悲鳴をあげた。
 清姫は怪異の苦悶の声にも動じず、右腕を振り下ろしながら言った。
「勧請、降魔の利剣」
 古木が断ち割れる音と激しい金属音、そして女怪の絶叫が夜の病院に響いた。
 全長2メートルはありそうな大きな剣が、片輪車を貫通して床に突き刺さっていた。どこから降ってきたものか、天井にはなんの傷痕もない。
「まだ動くの。その女が潰れないとダメなのかしら」
 清姫の言葉は淡々と静かだ。
 かろうじて巨大な剣の一撃から外れていた女怪が恨みと怒りの声をあげると、車を締め付けていた黒蛇と剣が霧消した。しかしそれを見る清姫の目は、いまだに冷ややかだ。
「勘違いしないでね。貴方が消したのではなくて、術理が完了したから消えたのよ」
 女怪は答えず、一つだけの車輪が前進を再開した。一気に加速する妖怪には、突破の意思ではなく殺意が見える。
「抗う気なの。いいわ、わたしと貴方の想念、どちらが強いか思い知らせてあげましょう」
 言いざま、清姫はひとえの袖をなびかせて、大きく両手を打ち鳴らした。
 拍手。
 掌に生じる衝撃と耳を打つ音が、清姫の雑念を払……わない。
 目の前の怪異を滅そうとする意思を打ち払う。
 術者を同志に、怪異を力にせよと受けた指示を追い払う。
 残るものこそ雑念である。妄念である。いつも心のそこに渦巻く愛憎・後悔・嫉妬・殺意・害意・孤独感・飢餓感、その合切を集結させ、言葉によって形を与える。
「その影は大地に暗く落ち、その瞳は鬼灯のごとし。その身は八つの峰と八つの谷を越える蛇」
 形を思い浮かべて最後に名を呼ばわれば、清姫の持つ最大の式神が現れる。
「いでよ、八岐大蛇」
 突進しようとする片輪車の前に、清姫の式が黒々と結実する。
 ヤマタノオロチの名に反し、それの持つ首と尾の数はあきらかに10を超えていた。大きさも不揃いな首の一つ一つには真っ赤に燃える目があったが、片目のものもあれば5つ以上の目を持つものもあった。姿かたちだけではなく動きも統制されておらず、見えぬ天を求めてか声なく慟哭する首、片輪車を威嚇する首、己が同胞に牙を立てて血膿を流す首すらあった。
「これがわたしの想いのカタチ。もしも貴方が打ち返せたら、その時は仲間に紹介してあげる。共に太陽と月を喰らうために」
 式が打ち返されたら、しかも己の持つ最大の渾身の式が破られたら自身もただでは済まぬことを知りながら、どうせできぬであろうと含んだ言葉を放つ。
 そして、それまでとりとめのなかったオロチの首たちが、一斉に片輪車へと牙を剥いた。

 夕焼けに染まる喫茶店で、学生服の少年が大盛りのエビピラフをかきこみながら嘆息した。
「ほんっと仕方ないなぁ、きよ姉の八岐大蛇の八つ当たりは」
 なにをくだらぬことを、と冷たい視線を送る清姫に、少年が続けていった。
「いつものことだけど、親父が怒るよ」
「いつものことだから怒るのよ」
「わかってるなら、なんとかしようぜ」
「してるわよ。こうやってあなたに食事を奢ってるのも、とりなして欲しいからでしょ」
「事を収める方じゃなくて、起こさないほうになんとかしてほしいよなぁ」
「悲しい中間管理職みたいね、あなた」
 清姫の言葉に、少年がスプーンを動かす手を止めた。
「そっか、中間管理職って俺みたいなのなんだ」
「もう少し社会勉強が必要ね。16年のブランク、しっかり埋めてきなさい」
「埋める埋める。で、もう少し空きっ腹も埋めて欲しいんだけど」
 スプーンが止まったのは会話のためではなく、食べるものがなくなったせいらしかった。
「あなた、ちゃんと三食摂ってる?」
「大丈夫だよ、もみじ姉が美味いもの作ってくれてるし」
 清姫は無言で少年を見つめた。
 少年は追加注文していいか、答えが返ってくるのを無言で待った。
 清姫は無言で少年をにらみつけた。
「あ、ああっ、きよ姉の料理のほうがもちろん美味いけど」
「20点ね。フォローが遅いし、苦しいわ」
 そう言いつつ清姫はメニューと取って渡した。
 きついことを言いつつ甘やかしている自分は打算的なのだろうか、と清姫は考えて、すぐに否定した。そもそも食事で釣って甘えているのは自分ではなかったか。やはり打算的で情の薄い女なのだろう、とそこまで思って自己嫌悪を噛み殺す。
 次に八岐大蛇を結実させたら、また首が一本ほど増えているかもしれない、などと思いつつ。
 喫茶店のテレビが、どこかのマンションの一室で蛇にかまれた痕だか車に轢かれた痕だかがある女の死体と、行方不明になっていた乳児たちの死体が発見されたと言うニュースを流していた。しかし清姫と少年は、そんなものには目もくれない。
 そしてまた日が沈む。
 鬼達の時間がやってくる。
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