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適当に駄文。 書き物は妖怪メイン・・・でもないかも。 TRPGとか電源ゲーとかの話も。
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カテゴリー変えて、第3弾。短め。
以降続けるかどうかは微妙なところ。

今日もダラダラしてますが、退治してばかりじゃありません。

+ + + + + + + + + +
 陸上部の活動が無い日は、4人がそろって街に繰り出すのが常となっていた。卓真を街の各所へ案内すると称して、遊んで歩いているわけだ。
 卓真が転校してきてからしばらく経ち、慣れてきた彼も部活動でも始めようかとしているようだが、風音と雪夫の帰宅部2人組がなにやら画策しているようで、見学にも行けていないようだった。千夏は先日、「3人集まれば同好会が」などと言いながら何か規約らしきものを読んでいる雪夫を目撃していたので、どうも嫌な予感がしてならない。
 そういうわけで、その日も4人で他愛も無い話をしながら、街を練り歩いていた。
 安くて量が出てくる食堂、適当に時間をつぶすのに良い喫茶店、たまに掘り出し物の服が見つかる店、そんな重要な場所はすでに教えてしまっており、今度はどこへ行くかと風音と雪夫が喧々諤々としていた。付き従う卓真は、微笑ましそうにそれを眺めている。
 ふと気になって、千夏は卓真に問いかけた。
「物部くんはさぁ、前住んでたとこの友達とかと連絡取ってるの」
 卓真は不意をつかれたように驚いた顔で千夏を見返し、しばし沈黙したあとで笑いながら答えた。
「きっついなぁ。俺友達いなかったからなぁ」
 千夏は絶句した。
 信じられないがいじめでもあったのだろうか、それとも他の何か原因があったのか。卓真は確かに多少変わったところもあるかもしれないが、決して人付合いの悪そうな人間には見えなかった。だいたい変わってるだけなら雪夫のほうがたいがい勝っている。
 言葉に詰まった千夏をフォローするように、風音が会話に加わった。
「そういえば聞いていなかったが、物部はどこから引っ越してきたのだったか」
 卓真は眉を寄せて考え込んだようだった。質問を嫌がっているのではなく、なんと答えようか思案しているように見えた。
「んー、田舎」
 やっと出てきた答えに、今度は雪夫が噛み付いた。
「田舎って場所はないだろう。どこなんだ」
「東北のほうの。うーん、すまん、あんま言いたくないんだ」
 そう言われては追求もできない。会話も続かなくなり、皆が無言で歩いた。結局目的地も決まらずにあてもなくふらふらと進み続け、人気の無い路地に入り込んだ。
 重くなった空気の中で、千夏は悩んでいた。もともと彼女の不躾な質問が招いた事態である。卓真に謝ったほうが良いのではないか、しかしそれは彼が触れてほしくないと言ったことに再度言及することにならないか。
 不意に、考え込みながら歩く千夏の脛に、何か軽いものがぶつかった。
「あれ」
 小石だ。どこにでもありそうな、親指の先ほどの大きさの丸みを帯びた小石が、足元にコロンと転がっていた。
 背後を振り返っても誰もいなかった。卓真と並んで最後尾を歩いていた千夏に、誰かが石を蹴飛ばしたわけではない。かといってこの4人以外に他に動くものなど猫一匹居はしない。
 千夏は小石を拾い上げてきょろきょろと辺りを見回した。その様子に卓真が呟く。
「鬼の礫だな」
「え、また妖怪」
 思わず顔を引きつらせた千夏を見て、卓真が小さく笑った。
「砂かけ、しばがき、天狗の礫。呼び方は色々あるけれど、全部どこかわからないところから小石や砂が飛んでくる現象だ」
 その説明に雪夫と風音がぼそぼそと何か話し始める。
「蛙の雨が降ったっていう話を聞いたことがあるな」
「またマンガの受け売りを。そもそもそれとは別の事象だろう」
 卓真は笑みを苦笑に変えながら説明を続ける。
「別に不思議なことじゃないさ。どこかで何かの影響を受けた、たとえば誰かが蹴飛ばした、小石が動き出して、他の物体に当たったり風を起こしたりしてエネルギーを伝え続けて、その終着点が橘さんに当たった小石だったってだけだ」
 ある小石から別の小石、または木の枝やゴミなどに玉突きのように加速や衝突が繰り返されて、その結果として「なにも無いところで小石が動いた」ように見えるのだと卓真は説明した。
 もちろん実際にはエネルギーは衝突を繰り返すことで減算されてゆく。摩擦熱や衝突音としてエネルギーが消費されてゆくことで、普段は小石を動かせるような大きな力は伝播しないのだという。しかし時折坂道で加速したり、偶然他の運動する物体と接触することでエネルギーを補充したりして、信じられないほど遠くから考えられないほど多くの手順を踏んでエネルギーが伝えられる可能性も残っているのだ。
 話を聞いた風音が口を開いた。
「私としてはアレを思い出すな。蝶が羽ばたくことで地球の裏側で雨が降るという。アレは小さな出来事が、別の場所で大きな出来事を起こす引き金になるという話だが」
 そこまで聞いた雪夫が、不意に明るい声で言った。
「ビリヤードに行かないか。最近やってなかったしな」
「ああ、俺やったことないんだ。見てみたい」
「頭脳派の私としてはボーリングよりも好感が持てる意見だ。物部も興味があるなら、なおさら良いな」
「あ、俺ボーリングも知らないから、どっちでもいいよ」
「僕がビリヤードと言ってるじゃないか。ボーリングはまた今度だ」
 会話が再開したことで、空気がまた軽くなった。
 卓真は先ほどエネルギー伝播の終着点が千夏だったと言っていたが、千夏にはそうは思えなかった。
 どこか遠くから誰にも知りえぬ方法で伝わってきたエネルギーは、千夏にぶつかることで4人の雰囲気を動かした。そして多分、その雰囲気の動きはまた新しいエネルギーとなって別の何かを動かすのだろう。
 どこからかやってきて偶然千夏と出会い、そしていつか大きくなるかもしれない小さな波紋を呼んだ鬼の礫。それがなんだかとても大事な物に思われて、千夏は小石を拾ってポケットにしまいこんだ。
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いつもは別のハンドルを使っている。
某MMOの属性武器の通称と同じなのは嫌なので、こっちを名乗る。
某大学RPG研究会OB。
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