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適当に駄文。 書き物は妖怪メイン・・・でもないかも。 TRPGとか電源ゲーとかの話も。
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←鬼語(モノガタリ)之壱:片輪車
ながっ
もっとこう、なんだ、短くまとめる練習とかだな
内容に比して長いと密度というものが・・・

+ + + + + + + + + +
 鬼語(モノガタリ)之弐:おとろし
 少年は石段を降りていた。
 背後の神社からは、わずかに人々の明るい声が聞こえた。
 夏祭りからの帰りであった。
 石段の周囲に灯りはなかった。夕暮れから祭りに訪れた人々ならば、懐中電灯なりなんなりを持ってきていただろう。しかし少年は朝から祭の準備に神社を訪ねており、そのような用意をしていなかった。
 少年のほかに石段を歩く人はなかった。
 祭見物に神社に足を向けるには、あまりに遅い時間であった。
 適当に祭を見て帰るにも遅すぎる時間であった。
 祭りの最後の最後まで数少ない人と笑いあいながら楽しむには、まだ早い時間であった。
 少年は背後の神社からの光だけをたよりに、すこし苛立たしげに石段を降りていた。

 神社の一人娘は、少年のクラスメートであった。
 美人でこそないが快活で気さくな娘は、少年のあこがれであった。
 先日、娘が自分の友人達に祭の手伝いをしてくれないか、と頼んでいるのを少年は漏れ聞いた。
 少年はもしかしたら自分にも声をかけてくれるかもしれぬ、と期待した。しかし気恥ずかしさから娘に話しかけたことのない少年に、娘は手伝いを頼んだりはしなかった。
 娘の友人たちのうち、二人の男女は手伝いを引き受けたようであった。しかし残る一人の男は、娘ととくに仲のよいように見受けられた転校生は、その日は外せない用事ができそうだだの、その前の日もその前の前の日もだめかもしれぬだのと言って断っていた。
 娘は内心、断られると思っていなかったのであろう。無理を言ってすまぬと転校生に謝っていたものの、困惑の色が見て取れた。
 人知れぬようにずっと娘を見続けていた少年にだけは、娘が自分自身にすら隠そうとしている困惑が見て取れたのだ。
 少年は娘の誘いを断った転校生に激怒した。
 少年は娘に頼られていた転校生に嫉妬した。
 そして少年は、今こそ絶好の機ではないかと密かに喜んだ。
 なけなしの勇気を振り絞った少年は、自分が助けにはならぬかと、初めて娘に自分から声をかけにいったのであった。

 娘の男友達と少年に割り当てられた仕事は、主に力仕事であった。
 朝からは昼におこなう儀式のために太鼓やらなにやらを運ばされ、昼過ぎてからは地域住民が田舎舞踊や素人演劇で使う舞台の設営を手伝わされ、日が落ちてからは自分たちが作った舞台に大道具やら小道具やらを上げたり下ろしたりさせられた。
 娘と女友達は、巫女服を着せられて社務所に座らされていた。お札やお守りの販売要員にされたらしかった。
 少年はいつもと違う娘の姿にドギマギし、思わず注視したくなるのを無理やり目を逸らして、自分の仕事に専念した。
 夜までは、少年にとって嬉しく楽しい時間であった。たとえ娘の近くにいなくても、話などできなくても。ただ娘の役に立ったことだけが幸せであった。
 そして夜。
 新たな参拝客が来る様子がなくなり、境内に残った十数名の人間がすっかり腰を下ろして帰る気配を見せなくなった頃。
 娘の父である神主が、少年達に手伝いの礼と、もう帰宅して良い旨を伝えた。
 少年は「さてどうしようか」と思った。このまま帰るか、もう少し勇気を出して娘のそばに残ろうか、と。
 しかし彼は、娘と友人たちの会話を漏れ聞いた。
 彼らは、もしかしたら来るかもしれぬ転校生のために、祭りの場に残ろうと話していた。
 用事がすめば来るかもしれぬとか、せっかくのコスプレを見せたいだけだろうとか、コスプレ言うなというか写真を撮るな誰に見せる気だとか。
 話題の中心になっているのは、娘の誘いを断った、あの転校生であった。
 少年は悔しかった。腹立たしかった。
 ああもちろん、転校生がわるいわけでも、娘たちに悪気があるわけでもないのはわかっていた。
 そもそも自分の感じている苛立ちこそが不当なものであるということを、少年はちゃんと理解していた。
 それでも、いやそれだからこそ、自分の中の苛立ちが抑えきれず、少年は「僕はもう帰るよ」と娘たちに告げた。
 この場に居たら泣き出しそうで怖かった。
 娘たちに怒鳴り散らしそうで恐ろしかった。
 そして少しだけ、ほんの少しだけ、少年の言葉にこめられた疎外感を娘が感じ取ってくれないかと、わずかに期待した。
 しかし少年にかけられた声は、礼と別れの挨拶だけであった。
 こうして少年は、暗い石段を一人で歩いていたのだった。

 少年は足を踏み外したりせぬように、足元を見て石段を降りていた。しかし視界の端になにか赤いものが見えた気がして、ふと顔を上げた。
 石段はもうすぐ終わりだった。あと四段ほどの石段と、それをまたいで神社の敷地の終わりを示す石造りの鳥居と、さらにその先に続く真っ暗な下り坂が見えた。
 先ほど見えた赤の色彩はいったいなんだったのか、と少年が周囲を見渡そうとした時、風鈴のように涼やかで儚い女性の声が一言だけ聞こえた。
「あなおとろし」
 その瞬間
     どさり!
         と「何か」が少年の上に落ちてきた。
 落ちてきた「何か」は、非常に重かった。
 不意に頭に受けた衝撃に、少年は耐え切れず倒れ、石段を転げ落ちた。
 かたい石畳に肘と膝を打ち付けて呻いた少年の背に、先ほど落ちてきた「何か」がずりずりと這いよってきてのしかかった。
 うつぶせに倒れた少年には、背中の上の重みがなんなのかわからなかった。目の前に広がるのは闇夜の坂道と石畳だけで、他にはなにも見えなかった。ただ荒い息遣いと、生臭い匂いから、背中の上の「何か」が大きなイキモノであろうということは推測ができた。
 怖かった。助けを求めようと思った。口を開けば悲鳴しか出ぬであろうことは推測できたが、それでもよかった。
 少年は「何か」に圧迫されるつづける肺に、必死で息を溜め込んだ。
 少年が声を出そうと口を開いた時、彼らが姿を現した。
 赤い和服に身を包んだ長髪の女性と、Tシャツにジーンズ姿の転校生。
 そう、転校生であった。少年を苛立たせた元凶その人であった。
 転校生は困ったように頭を掻きながら、何事でもないように少年に話しかけてきた。
「悪い悪い、こんな時間に人が来ると思わなくてさ」
 ということは、少年が陥っている苦境は転校生の仕業であるということか。
 責任の所在はあとで問うとして、今はただ助けて欲しい一心で少年は潰れそうな胸を無理やり動かして声を出した。
「たすけて」
「あー、うーん、ちょっと難しいかなぁこれは」
 少年の一心の言葉を、転校生は腕組みして唸りながら一蹴した。「とりあえず形だけ考えてみたんだけど、めんどくさいからパス」とでも言いそうな気軽な調子であった。
「な、なんで」
「なんでかっていうと、あんたが怖がってるからかな。そういうもんだからな」
 転校生がなにやら言いながら、訳知り顔で頷いた。和服の女性は転校生の隣で、一言も漏らさずにじぃっと少年を見下ろしていた。
 腕組みを解かずに、転校生が座り込んで少年に目線を合わせながら言った。
「うん、まあとりあえず何が起こってるのかだけは説明しようか」
 そんなことはいいから早く助けろ、と少年が言う前に、転校生が語り始めた。
「おとろしって知ってる? おどろおどろでもいいんだけど。神社の鳥居の上に座ってる、よくわからない妖怪な。あんたに今のしかかってるのが、それ」
 少年は、転校生が何を言っているのか理解できなかった。いや、する気もなかった。
 少年にわかったのは唯一つ、転校生が彼を救う気が無いということだけだった。
 助けを呼ばねばならぬ。
 そう思った少年であったが、目の前の転校生から目が離せなかった。転校生の言葉に耳を傾けざるを得なかった。理解は出来ぬ言葉であったが、しかし黙って聴かねばならぬという気になっていた。蛇の前に出た蛙が、似たような心地だったかもしれぬ。
「今日は神社の夏祭。夏の大祓えの神事だ。人の半年分の穢れが、ごっそり神社で禊がれる。
さて、禊がれた穢れはどこに行く? 神社の中でわだかまる?
いやそんなはずは無い。神社の『中』は神域だ。清浄な場所だ。俺たちが居られるわけが無い」
 おかしい。
 いまなにかおかしなことを・・・
「穢れは神社から逃げ出そうとする。しかし広大な『外』に出てしまえば穢れは拡散してしまう。
拡散するってことは、消えるってことだ。いつか蘇るにしても、もとのままとは行き難い。
ちょいと知恵をつけたモノなら、そこで精一杯抗おうとするだろう。じゃあそいつらはどうする?
簡単だな、『中』と『外』の境界にわだかまる。わだかまる、凝り固まる」
 少年の背中で「何か」がうごめいた。生臭い息を吐きながら、懐いた子犬のように、自分の体を少年の背にこすりつけた。その圧迫感に、少年の肺から息が漏れる。
 転校生は少年の苦境を気にせずに言葉を続けた。
「なまじ『中』と『外』にわけるもんだから、『境界』ができる。
そこに生まれたのが、おとろし。正体のわからぬ、おどろおどろしきもの。
そうだな、同じ存在としては、古くにはたとえば」
 そこまで転校生が言ったとき、風鈴のように涼やかで儚い声が呟いた。
「たとえば、羅生門の鬼」
「もみじ姉ぇっ」
 転校生が小さく叫んで立ち上がった。転校生の視線の先を見れば、和服の女性が佇んでいた。
 では先ほどの声は、始終無言だった彼女の声なのだろうか。
 少年はその疑問をもてなかった。女性の背後の闇の中に、疑問を吹き飛ばすような存在が立っていたのだ。
 身の丈は3メートルほど。筋骨隆々とした肉体には赤くねばい液体を滴らせる腰布以外をまとっておらず、牙をむき出しにしたその頭部には、見まごう事なき角が二本生えていた。
 鬼であった。
 鬼は腰をかがめ、針のような剛毛の生えた腕を伸ばした。腕は何も知らぬ気に佇む女性の傍らを過ぎ、少年の鼻先へ届こうとした。
「しっ!」
 夜気も鬼気も切り裂く鋭い気合は、転校生が放ったものだった。
 転校生が跳んだ。跳んだ先は鬼が延ばした腕だ。太いとは言え、人ひとりが乗るには細い丸太橋。そのうえに転校生は飛び乗り、間髪いれずに走った。無論行く手には鬼の顔が待っていた。
 転校生が再び跳んだ。鬼の肩口で片脚で踏み切り、倒立の要領で鬼の二本角をそれぞれ両手で掴んだ。そして転校生の肉体が、鬼の頭上で制止した。
 何がおきたのかわからぬ様子で目をしばたたかせている鬼の頭上で、転校生が大きく口を開けた。
 開けた口の直径は10cmを超えた。
 まだ広がる。顎の外れる音は聞こえなかった。
 直径が15cmを超えたあたりから、転校生の頭部はもう元の形を残していなかった。比喩ではなく、顔中口だらけであった。それでも口は広がるのを止めず、やがて転校生の頭が、いや太さを増した首が、いやいや胴体すらも大きく広げた肉の袋のようにった。
 袋はすっぽりと鬼の頭を飲み込んだ。頭を飲み込み、肩を飲み込み、腹も腰も脚も飲み込んだ。鬼の姿はすっかり隠れ、不気味にうごめく袋しか見えなくなった。
 少年は背中の重さも忘れて驚愕した。何が起こったのか理解できなかった。
 少年が理解できぬうちに、鬼を飲み込んだ肉の袋は見る見るしぼんで転校生の姿を取り戻した。不可思議にも、逆落としに鬼を飲み込んだはずが、少年は地に足をつけて立っていた。身に着けたTシャツにもジーンズにも、破れ目も汚れも見えはしなかった。
 転校生が大きくゲップをすると、その口から青白い燐光がひとすじ漏れた。
「図体ばっかデカくて中身はほとんどありゃしない。もみじ姉、やっぱ門もないところで羅生門の鬼呼ぼうってのは無理だよ」
 転校生に話しかけられた女性は、腰に両手を当てて首をかしげた。すこし眉を寄せているところを見ると、怒っているらしかった。
 その様子に慌てた転校生が、両手を振って弁解した。
「来る前にいったじゃん、もみじ姉っ。このへんに俺の友達の家があるんだから、あんまり騒動起こしたくないんだよ。
羅生門の鬼なんかに食わせて人骨ばら撒かれたら、大変だって」

 少年にもだいたい状況が飲み込めてきた。
 少年自身が、妖怪だか鬼だか、なんだかおかしなものに襲われていること。
 目の前の女性が、少年を亡き者にしようとおかしなものを新たに呼んだこと。
 目の前の転校生も、鬼だか妖怪だかそういうモノであるということ。

 死ぬのだと思った。殺されてしまう、食われてしまうと思った。

 思った少年が悲鳴をあげるために、息を吸った。

 転校生が女性に言った。
「呼ぶならあっちのほうだろ、白玉かなにぞと人の問ひし時」
 風鈴の音のような声が応えた。
「露とこたへて消えなましものを」

 少年が口を開いた。

 転校生が言った。
「そうそれ、おにひとくち」
 涼やかで儚い声が応えて言った。
「鬼の名を呼べば鬼が来る」

 少年の叫びは、突如響いた雷鳴にかき消された。
 少年の悲鳴は、降り出した豪雨に吸い込まれた。
 明かり一つ無い夏祭りの夜。
 黒雲に覆われた蒸し暑い夜。
 一人の少年が姿を消した。

 のちに一人の娘が、自分の家業の手伝いをしてくれた人間がその帰りに行方不明になった、と心配そうに語った時のこと。
 一人の少年が困ったように頭を掻いて、迷惑なやつだなぁ、と言った。
 娘に不謹慎だと怒られた少年は「ごめんごめん」と謝ったが、なにについて謝ったのかはわからない。
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