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適当に駄文。 書き物は妖怪メイン・・・でもないかも。 TRPGとか電源ゲーとかの話も。
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3億円当てて仕事を辞めよう計画が、確率論的に妥当に敗れ去ったので書き物。

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さきにおこし

 それは私の記憶。
 蝉の鳴く夏の夕暮れ。
 近くの川原から家へと帰る私の背後から、ひたひたと迫る足音がした。
 私が立ち止まると足音も止まった。
 私が歩き出すと、慌てたように足音も追随した。
 肩越しに振り返っても、長く伸びた私の影しか追うものは見えなかった。
 残り短い夏を惜しむように鳴き交わす蝉の声のなか、足音はどこまでもひたひたと私を追ってきた。
「べとべとさん、さきにおこし」
 私が立ち止まって呟くと、ひたひたと、今度は小さな手が背中を叩いた。
 振り返っても、私の影以外なにも見えない。
 しかし視線を落とすと、小さな顔が可愛らしく私を見上げて拗ねていた。
 それが私の記憶。

 街に住む従姉妹のちぃちゃんは、夏や冬の長い休みには、伯父夫婦とともに田舎へ遊びに来た。
 中学に入って急激に背が伸び始めた私は、まだ8歳のちぃちゃんのお守りとして一緒に遊んだ。
 山の虫取りや川の魚釣りなど、女の子にはたいして面白くもなかったろうに、ちぃちゃんは私の後を、いつも一生懸命に追いかけてきた。
 私が「どうして前を歩かないのさ」と聞くと、ちぃちゃんは「だってお兄ちゃんが見えなくなるんだもん」と拗ねて言った。
 並んで歩くとちぃちゃんが手を繋ぎたがるので、私は恥ずかしくてそれを拒んだ。
 だからちぃちゃんは、いつも私のあとをひたひたと追っていた。

 それは私の記憶。
 蝉の鳴く夏の夕暮れ。
 近くの川原から家へと帰る私の背後から、ひたひたと迫る足音が、しなかった。
 心配になってふと振り返ると、つまづきでもしたのか、地面にしゃがみこんでいるちぃちゃんが見えた。
 そして私が声をかけようとした瞬間、鳴き交わす蝉の声を引き裂いて、車のエンジン音が突っ込んできた。
 それが私の記憶。

 運転席からはしゃがみこんだちぃちゃんの姿は、死角となって見えなかったのだろう。無論それで田舎道を暴走していた運転手の罪がなくなるわけではない。
 しかし最大の罪人は私であった。
「おまえがちゃんと、ちぃちゃんを見ていれば」
 父は一度だけ、私にそう言った。母も伯父夫婦も何も言いはしなかった。

 今もまだ、この時期になると私の背後から追いかける足音が聞こえる。
 私が立ち止まると足音も止まる。
 私が歩き出すと、慌てたように足音も追随する。
 肩越しに振り返っても、長く伸びた私の影しか追うものは見えない。
 残り短い夏を惜しむように鳴き交わす蝉の声のなか、足音はどこまでもひたひたと私を追ってくる。
「べとべとさん、さきにおこし」
 私が立ち止まって呟いても、背中を叩く手は無い。
 蝉の鳴き声のなかを、私の足音だけが家路につく。
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