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適当に駄文。 書き物は妖怪メイン・・・でもないかも。 TRPGとか電源ゲーとかの話も。
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買って嬉しい花一匁

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はないちもんめ
少女が目を凝らしても、見下ろす影の顔は見えない。
日が暮れてしばしの時間が経ち、街灯の無い小さな橋のたもとには、
少女と、少女を見下ろす黒い影と、影にむかっておべんちゃらを並べる老婆だけがいた。
老婆は一心に少女がどれだけ美しいか、歳若いか、おしとやかであるかと語り続けている。
しかし影はそれには興味がないようで、薄く光る目で少女をまじまじと見つめ続ける。
少女が目を凝らしても、黒い影の顔は見えない。
やがて影が老婆を手招きし、なにかを手渡しながらボソボソと言葉らしきものを呟いた。
老婆は喜色満面で少女を影へと押しやる。
影は少女の手を引いて川原へと降りていく。

暗がりの中で少女は体を開く。
橋の下には星明りすらない。
ただ暗闇に、黒い影が漏らす息遣いだけが聞こえる。
少女はただ唇を噛み、己の内から漏れる声を押し殺す。
毎夜毎夜の繰り返しで、少女はすっかり慣れていた。
ただじっとしていれば、影はそのうち満足して立ち去る。
そうすれば老婆が少女に金銭をくれる。
年端も行かぬうちに二親と死に別れた少女に、
他にどうやって食い扶持を稼ぐすべがあっただろう?

ある晩、去り際に影が少女の手に何かを握らせた。
暗闇の橋の下では何を受け取ったかもよくわからず、
橋のたもとまで登ってから手の内を確かめた。
紙切れ一枚であった。
何も書いてない白紙の切れ端であった。
それを見た老婆が恐ろしい剣幕で怒鳴った。
「およこし!」
言葉とともに、老婆の手が紙切れを乱暴に奪い取った。
慌しく懐へ紙切れをしまいつつ、老婆が取ってつけたような笑顔で言った。
「あんたが持ってても仕方ないもんだからね。
おやまあ、なんだい、不満かい? じゃあ、こうしよう」
老婆が懐から戻した手には、いつもより多めの銭が握られていた。
「いいかい、また今度ああいうのがもらえたら、あたしが買い取ってやる。
どうせあんたの役には立ちゃしないんだ。おあしの足しにするがいいよ」

おあし、とは銭のことであるらしい。
足が生えて自分で歩いていくかのように消えてしまうから、そう言うのだそうだ。
たしかに銭はすぐになくなった。
育ち盛りの少女であったし、老婆の払いは十分に良いとは言えなかった。
少女が腹いっぱいに食事を詰め込める日は、ほとんどありはしなかった。
昼まで橋の下で眠り、起きては少ない銭で食事を取り、
夕方までうつらうつらと舟をこぎ、まだ銭が残っている幸運な日なら飯を食い、
そして夜には老婆に呼ばれて、影に体を開く。
存分な食事も、十分な運動もできぬまま、
少女の未成熟な肉体は、無茶な生活で支えられ続けた。

何年も、何年もその生活が続いた。
少女の背は伸びなかった。
肌は白く透けて、青い静脈が艶かしく浮かんでいた。
唇を噛むだけだった少女は、やがて影たちを喜ばせるやり方を覚えた。
影は喜ぶと少女に紙切れを渡し、少女が紙切れを渡すと老婆は喜んで銭をくれた。
毎夜毎夜、橋のたもとに現れて、少女は影へと体を開いて呼びかけた。
「おあしをください」
「おあしをください」
そこに少女の喜びは無かったが、生きるためにそれを繰り返した。
「おあしをください」
生きたところで、それを繰り返すだけの人生であったが。

ある晩、影が立ち去り、少女が紙切れと交換に銭を受け取った時のこと。
老婆が溜息をついて言った。
「ああ、これで終わりだ。おまえに渡すものはもうないよ」
不思議そうに見上げる少女に、老婆は残念とも安堵ともつかぬ溜息をもう一度つき、
さきほどの言葉を繰り返した。
「お前に渡す銭は、もうありゃしないよ。全部おまえにやっちまった。
ほら、あたしが持ってるのはこれだけさ」
バサバサと懐から取り出したのは、白紙の束であった。
「ああ、すっとした。やれ、ほっとした。
溜めに溜め込んだ小銭が、三途の渡しの邪魔になるとはねぇ。
地獄の沙汰も金次第、なんて言いながら、受け取るのは紙銭だけときたもんだ」
「馬鹿だね、今まで気づかなかったのかい。
あたしも、おまえがくわえこんでた客も、みぃんな死人さ。おっちんでるのさ」
「冥途に向かう連中に、まさに冥途の土産とおまえを売って、あたしゃ紙銭稼いでたのさ。
あれだけ銭溜めるのに、しこたま悪いことしたからねぇ。
閻魔様に渡す紙銭も欲しいし、三途の渡しの邪魔になる重みも減らさなきゃ」
夜明けの光にうっすらと姿を溶かしていく老婆は、最後に少女へ言った。
「あんたに食い扶持の稼ぎ方教えてやったんだ。
功徳も十分積んだろうさ。紙銭もたんまりだし、これであたしも極楽行きだよねぇ」

死者が消えても生きねばならぬ。
生きるために死者と交わり続けた少女は、今日も橋のたもとで体を開く。
「おあしをください」
「おあしをください」

老婆が極楽へ行ったのか、少女がいかに生きたのか、
それは誰も知る由もないが、長く語り継がれている都市伝説が一つある。
「あしをくれ」と追いすがる老女の話を、聞いたことはあるだろうか?
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いつもは別のハンドルを使っている。
某MMOの属性武器の通称と同じなのは嫌なので、こっちを名乗る。
某大学RPG研究会OB。
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